認知症と"活"きる

理解すること、共に暮らすこと

「あなたの顔は笑ってる?」マスク着用が認知症高齢者に与える影響とは

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目は口ほどにモノを言う・・・同じ対応でもガラリと印象が変わります


こんにちはけーしーです。本日は比較的タイムリー(?)なテーマです。

 

昨今の世界的情勢から「マスク」は生活の中において欠かすことができないものとなりました。普段マスクしている顔しか知らない知り合いがいて、たまたま外したお顔を見てみると(色んな意味で)ビックリ・・・なんてこともよくある話かもしれませんね。

 

さてマスク着用に関することは認知症高齢者と関わる医療・介護の分野でも例外ではありません。

認知症の方は視覚情報・聴覚情報に敏感であり、例えば何か作業をしてもらっていたとして、横でTVをつけてみるとTVの方に気が向いてしまい全く作業に集中できなくなることもしばしばです。あるいは大きな物音が近くで起きると、そのことが大きなストレスとなり情緒不安定に陥ることも珍しくありません。それほどまでに視覚や聴覚から得る情報というものに敏感になっていると言えるでしょう。

 

そんな中で一番最初の話に戻りますが、マスクを着用して認知症の方と接することはどのような影響を及ぼすのかと言うと、一番は「表情」の読み取りに大きな障害を与えると言えます。

認知症の方は視覚情報から得る「他人の表情」に非常に敏感です。笑顔に対して安堵感を覚えますし、怒った表情には激しい恐怖を、悲しい表情には強い不安を感じます。

そんな中で顔の半分をマスクで覆い隠したとしましょう。表情を読み取れる材料が「目」しか無くなってしまうというわけです。ここで介助者が俗にいう「目が笑っていない表情」だったとしたら・・・介助者本人は怒っているわけでも悲しんでいるわけでも無かったとしても、それを伝える手段は目以外はありません。仮に言葉で説明しても認知症の方に理解は難しいかと思われます。『目は口ほどにものを言う』とはよく言ったものですね~。

 

ここまでの中で理解していただいたと思いますが、認知症高齢者にとって大切なことは「笑顔で接すること」。そしてマスクを着用している以上、それ伝えられるのは介助者の「目」のみです。だからこそ常に笑顔で安心感を与えられるような接し方を心掛けたいですね。マスク越しでもその「笑顔」はかならず相手の気持ちに伝わっているはずですから・・・。

 

 

「私はタクシーに乗って家に帰る!」認知症、帰宅願望がある方への対応とは

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本人にとっては「帰宅する」という明確な目的がある


こんにちはけーしーです

実際に自分が経験した認知症ケアの事例を基に、関わり方を一緒に考察してみましょう

 今回は「帰宅願望」が強い認知症の方への対応についてです。

 

●A美さん(90代 女性)のケース

基本情報:施設に入所中。日常生活動作はほぼ自立。歩行は杖歩行で可能だが、転倒のリスクが高いため職員による見守りが必要。認知症は中等度で時々失認・失行・失見当識が見られる。日常会話は問題なく可能。長年食堂を経営されており、まじめな性格。

 

ある日の午前中でした。介護職員から「A美さんが外に出てタクシーを呼ぼうとしている。施設に連れ戻そうとしても怒りだして言うことを聞かない。その場から一歩も動こうとしない」という報告を受けました。

報告を受け急いで玄関の外へ出てみると、玄関前の歩道の真ん中で押し問答をしているA美さんと職員の姿がありました。

 

ここまでの経緯を詳しく聞いてみると

・「私はタクシーに乗って家に帰る!」と言い突然玄関へ向かい外へ飛び出す

・職員が慌てて追いかける

・「私のお金で帰るのが何で悪いの!」と怒り出す

・その後職員がなだめるも怒りが収まらず

と言った流れでした。

 

<まずは相手の考えを知ろう>

このような状況でこちら側がいくら行動を制止したところで、本人の意図している考えとは異なるため怒りを買ってしまうことは明白です。

まず取るべき行動としては、今いる場所が歩道の真ん中でありすぐそばの道路には車が走っているわけですから、安全の確保を目的として玄関の中まで誘導することでした。しかしどのように玄関まで怒っているA美さんを連れていけるか・・・とにかく今起きている状況の整理と情報を集めることが必要だと感じました。

少しでも車道から離れるように促し、最低限の安全を確保したところで自宅へ帰りたいと思った理由を聞いてみました。

最初は怒りが収まらない様子のA美さんでしたが、こちらが話を聞く態度を見せたことで徐々にですが態度を軟化させ、ぽつりぽつりと理由を語り始めました。

 

・「自分は家に忘れ物をしたので取りに帰りたかっただけ」

・「職員に迷惑はかけれないから自分で帰ろうと思った」

・「職員にダメと止められて腹が立った」

・「物の言い方というものがある」

 

忘れ物に関しては具体的に答えませんでしたが、ご本人にとってはとても重要な意味を持つものだったことが推測できます。あとは対応した職員を責めるつもりはありませんが、帰ろうと企図された際の声掛けや対応に不味さがあったことも想像できました。

 

<相手の気持ちに寄り添う姿勢と傾聴>

帰りたい理由怒っている理由が分かったので、次はそこに対するケアになります。

こちらはまず謝罪を行います。

『帰ろうとしているところを無理やり止めてしまってごめんなさいね』

『良かったら中で話を聞きますよ』

 

相手が取ろうとしていた行動から考えを読み取り、確認の意味で同じ内容を反復します。

『タクシーに乗って自宅へ帰ろうとされてたんですね』

『帰ってから大事なものを取りに行こうとしてたんですね』

 

外まで歩きずっと立ちっぱなしだったA美さんの疲労に配慮します。

『ここまで頑張ってお一人で歩いてきたんですね』

『ここに立ちっぱなしで足も疲れたでしょう』

 

このような声掛けを時には笑顔で、時には相手を労わるように粘り強く続けることでA美さんは落ち着きを取り戻すことができました。こちらが焦ってはいけません。とにかく冷静に対応することが大切なのです。

 

<最後の一押し、戻った後の安心感>

さて無事に玄関をくぐらせ施設のフロアまで連れてくることができました。しかしここで不安な気持ちが再出現し、また外へ出て行かれると今までの苦労が水の泡・・・。

ご本人の意思で施設内へ戻ってくれたことへ感謝の気持ちを伝えます。

『皆さんもA美さんのことを心配していましたよ』

『ついてきて下さってありがとうございます』

 

慣れた環境(施設内)に戻ってこれて安心したのか、次第に笑顔も見られるようになったA美さん。施設の外という慣れない環境よりも、住み慣れた施設内の環境にようやく安堵をおぼえた結果でしょう。

 介護職員に交代して居室へ誘導してもらい普段のA美さんに戻っていきました。

「帰宅したい」という気持ちを一時的にでも逸らすことができれば、その後はすんなりと元の生活に戻ることも多いです。 

 

さて、これは対応がたまたま上手くいった事例ですが、同じような対応をしても上手くいかない人もいますし、A美さんに関しても次が上手くいく保証はありません。
認知症を理解するとともに、普段からその人がどういう高齢者なのかを知っておく必要があると思います。その日の調子や環境などにも左右されますから、あらゆる要素を考慮しなくてはなりません。

認知症ケアには臨機応変さが求められますね。

 

 

ズバリ『認知症』って何???

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認知症の症状は中核症状とその周辺症状(BPSD)がある


はじめましてこんにちは。「けーしー」です。

当ブログでは、いままで自身が経験した認知症や高齢者に関する内容を記事にして綴っていこうと思います。

 記念すべき第1回の記事は…

ズバリ!!認知症」という病気そのものについてのことです。

 

皆様は認知症という言葉を聞いてどのようなイメージが浮かぶでしょうか?

お年寄り、脳の病気、物忘れ、徘徊、怒りっぽい・・・

ざっくりとしたイメージですが、概ねこんな感じでしょうか

これについてはイメージ通りで間違いはありませんが、そこには様々な

原因・要因・機序が絡んで認知症の主症状として出現していると言えます。

 

それではまずは認知症という言葉の成り立ちから説明いたします。

 

かつて認知症は「痴呆」と呼称されていました。これに関しては知っている方も多いかと思います。

1900年初頭、東京大学精神科の呉秀三教授がdementia(deが離れる+mentiaがメンタルの意)の訳語として痴呆と提唱したのが始まりです。

2004年になり、日本では痴呆という表現をやめて別の表現を用いる動きが出てきました。これは痴呆という言葉が、侮辱的な表現である上に実態を正確に表しておらず、早期発見・早期診断の取り組みの支障になっているというのが理由のようです。

用語選定にあたっては「認知障害」「もの忘れ症」「記憶症」「記憶障害」「アルツハイマー(症)」という候補も挙がっていました。

この新しい用語を決定するにあたって実施した投票では、国民からの票を最も集めたのが「認知障害」でしたが、これは精神医学領域においてすでに様々な場面で使用されており、従来の「認知障害」と区別できなくなるためこちらの採用は見送られました。

結果「認知症」が厚生労働省の発表により採用される形となり、この呼称が全国に広がりを見せることとなったのです。こうしてみると、「認知症」(という言葉)の歴史は、20年にも満たない比較的新しい物であることがわかりますね。

 

それでは次に認知症という病気はなぜ起こるのかについて説明したいと思いますが、その前に認知症の分類について補足しておきます。

 

認知症は「4大認知症」として以下の4つの分類に分けられます。

脳血管性認知症

アルツハイマー認知症

レビー小体型認知症

前頭側頭型認知症

 

 それぞれに異なる発症原因があると考えられていますが、例えば脳血管性認知症であれば脳出血脳梗塞で脳血流が途絶え、脳細胞が壊死して起こるとされています。

一方アルツハイマー認知症は上記の分類の中で最も多いタイプの認知症であり、原因はまだはっきりと解明されておらず、治療法も確立していません。(原因のひとつとしてアミロイドβという変性タンパク質の脳への蓄積が考えられています)

レビー小体型認知症はαシヌクレインというタンパク質によって構成されたレビー小体が、脳の神経細胞に蓄積して起こるとされています。

前頭側頭型認知症は脳の前頭葉・側頭葉の萎縮が特徴的ですが、その詳しい原因はよくわかっていません。(こちらもタンパク質の蓄積だと考えられています)

 

つまり認知症は様々な要因により脳細胞の不可逆的な変化や障害が起きることで、機能不全を起こす病気だと言えます。

 

最後に認知症の症状についてです。

認知症と言えば記憶障害が真っ先に思い浮かぶかと思われますが、これは認知症のすべての患者にみられる症状の一つと言えます。この他にも、見当識障害(時間や場所などがわからなくなる)、失認・失行(物や道具の使い方がわからなくなる、できなくなる)、計算力の低下判断力の低下実行機能障害がすべての認知症患者に見られる症状ですが、これらを総称して認知症「中核症状」と呼びます。

一方中核症状とは異なり、患者一人一人によって出現の有無や症状の内容が違っているものを総称し「周辺症状」と呼びます。特に近年ではこの周辺症状に着目し、認知症に伴う行動および心理症状のことを「BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)」と呼ぶようになりました。BPSDの中でも心理症状としては、幻覚妄想不安や抑うつ睡眠障害脅迫症状が挙げられます。一方行動症状としては、徘徊異食行動暴言や暴力昼夜逆転不潔行動収集癖失禁が挙げられます。BPSDは認知症のある方にとって様々な形で出現しうる症状ですが、近年その症状一つ一つには、認知症を患っていることによる理由・原因が本人の中にあるために出現していることが理解されはじめました。またBPSDには外部からの要因として、身体不調、薬物の副作用やストレス・不安、環境の変化や不適切なケアなどが密接に関係していることも明らかとなっています。

 

 

それではまとめに入りたいと思います。

認知症は脳細胞・脳神経の不可逆的変化に伴う病気

認知症は記憶や行動、感情などに障害をきたし、日常生活に影響を及ぼす

認知症には必ず起こる症状と、人によって起きる症状が存在する

 

簡潔にまとめるとこのような感じでしょうか。

 

今後も当ブログでは認知症について様々なテーマで取り扱っていく予定です。

それではまた、次回の記事でお会いしましょう。